for piano
duration about 14:00
premier 04, 2025 / Tokyo concerts lab
performance by Minami Iguchi
commission by Minami Iguchi



[Program note]
昨年の春、私は公園のベンチに座り、蟻たちがせっせと働く姿や、霞んだ空に音もなく流れていく 雲を眺めていました。その時、「私」という世界線にたてば、蟻と雲、それを視る私の身体は一つの 私の時間に組み込まれていますが、もし、そこから離れ「蟻」や「雲」の次元で捉えた時、または地 を這う蟻の足を支える柔らかな地表より奥深くの地殻や、オゾン層を抜けた先で膨張し続ける宇宙 の果てにまで思い巡らせた時、そこには無数の時間があるのかもしれない。そんな空想じみた考 えから作曲が始まりました。その後、いくつかの期間に分けて作曲されたからか、蟻は労働として の採掘の象徴、雲は詩の象徴へと意味が変化し、聴き手がどのように音と出会い、その時の流れ に耳を澄ませられるか、という問いかけが作曲を進めていきました。
ピアニストの指は、鉱石を掘り当てる金槌のように音の採掘を続けます。その指によって削がれ残 った鳴り響きは、沈黙の中で詩となり、何億光年という永い時の痕跡を残すでしょう。
この作品は、私にとって様々な実験ができる大きな挑戦となりました。そのような機会をくださった 委嘱者の井口みな美さんに心から感謝いたします。